それはクラシックなのか?モードなのか?
モードとしてはあまりにも気品があり、しかしクラシックの範疇を超えた色彩と色柄。まるきり職人仕立ての高級紳士服のようなクオリティと、多くの雑誌を騒がせるモードブランドのようなバランス感。
2012 AWのコレクションに突如として現れたこのブランド、MP di Massimo Piombo マッシモピオンボは、クラシコイタリアのファンの中で非常に大きな波紋を呼んだ、クラシックともモードともつかないブランドです。
そもそもクリエイティブディレクターであるマッシモ・ピオンボは、以前よりPIOMBO ピオンボというブランドを展開しており、クラシックとモードを融合させた新しく、それでいて毎日着ることのできるような親近感のある服を常に発表し続けてきていましたね。
国内ではインターナショナルギャラリービームス等で取り扱いがあり、そのクラシックを独自のスタイルでアレンジしたようなスーツ、ジャケット等の独特な佇まいを覚えている人も多いでしょう。1990年代の、つまり今のクラシコイタリアブームの一つ前のブームのときに一世風靡したブランドです。
そして2012年にPIOMBO ピオンボはMP di Massimo Piombo ディ・マッシモ・ピオンボとして復活。今となってはユナイテッドアローズなどのセレクトショップで、ボリオリやラルディーニといったブランドを押しのけるかのような勢いで取り扱われ、時代の荒波を乗り越え「新しい時代のクラシコイタリアブーム」の中心ブランドの一つとなりました。
しかしなぜこのブランドがここまで注目されているのか?
PIOMBO ピオンボはただ復活しただけではなかった。誰もがうらやむ、世界で最も強力なパートナーを得て復活してきたからこそ、MP di Massimo Piombo ディ・マッシモ・ピオンボはこれほど大きな存在感で復活を遂げたのですね。
そう、世界最高の既製服ブランドであるKiton キートンです。
この世界で最もラグジュアリーなサルトリアの後押しを受けたディ・マッシモ・ピオンボは、世界中のデザイナーズブランドと肩を合わせることもせず、あるいは人気のクラシコブランドと足並みを揃えることもせず、いきなりSartorio サルトリオやStile Latino スティレラティーノのような、今イタリアで最も注目を集めるコンセプトブランド達と同じ位置でスタートし始めた。
今回はそんな、今最も注目のブランドの一つであるMP di Massimo Piombo ディ・マッシモ・ピオンボの魅力に迫りましょう。
ただひたすらに美しさを追求して
正直なところ、この美しさには好みが分かれるでしょう。
原色や黒をためらうことなく用い、クラシックでは禁忌とされているような組み合わせを平然と試みるマッシモ・ピオンボのセンスに激しく共感する人もあれば、相容れないものを感じる人もあるでしょう。
しかしMP di Massimo Piombo ディ・マッシモ・ピオンボには少なくとも、一貫した美学が存在する。その一貫性と堂々とした姿勢には、誰もが感銘を受けるのではないでしょうか。
このブランドの服は必ずしも、キートンやアットリーニといったブランドが、サルトリオやスティレラティーノなどのセカンドラインを以て表現しているラグジュアリー感と同じものを持っているとは限りません。
値段に対して生地が飛び抜けて贅沢かと言われればそうでもないし、ベルベストの20万円のジャケットに比べられてしまえば「上質さ」で適うことはないでしょう。
しかしMP di Massimo Piombo ディ・マッシモ・ピオンボは決して、そこだけで語り尽くすことのできるブランドではない。むしろそこに絵画のような自由な発想を感じる必要があります。
マッシモ・ピオンボは突き詰めて無駄を排した素材や色彩から現れる上質さを、まるでリミックスするかのように掛け合わせ、それを提案しています。それは何に捕われることもない。「黒はフォーマルだ」というドレススタイルの不文律にも、「原色どうしの組み合わせは紳士服には適していない」という教則にも、「着丈は臀部を隠さなければならない」というジャケット着こなしのセオリーにも、一切捕われない。
ただマッシモピオンボにとって「これこそが美しい」と思えるバランス感がモード服のような着丈と、クラシックなラペル幅の組み合わせだったのであれば、それを実行する。濃く派手な青と原色の黄色の組み合わせが魅力的だと思えば、それをコーディネートする。黒と茶が共存するアイテムに美しさを見いだしたのであれば、それをコレクションとして発表する。
MP di Massimo Piombo ディ・マッシモ・ピオンボはクラシコでもモードでもない雰囲気を持っている。それはマッシモ・ピオンボがクラシコ、モードというくくりで服をとらえていないからです。ただ自分が思う「美しさ」を極めているのです。
こんな大胆不敵なまでの「自分にとっての美しさの実行」をやめないマッシモ・ピオンボの姿勢がそのままブランドとなっているのが、MP di Massimo Piombo ディ・マッシモ・ピオンボです。
その服は美しい。デザインや色彩、シルエットのことを言っているのではありません。その一貫性こそが、MP di Massimo Piombo ディ・マッシモ・ピオンボの美しさなのです。
Kiton キートンが作るピオンボの魔力
しかし先ほども書いたように、マッシモピオンボがこれほどの注目の中で復活を成し遂げたのは、Kiton キートンの絶大な影響力があったからです。
キートンは世界でも最もラグジュアリーで希少な生地を用い、非常に優れたレベルの職人がナポリ仕立てのニュアンスをふんだんに盛り込んで作り上げる世界でも希有なサルトリア&ラグジュアリーブランドです。
このKiton キートンが、おそらくはそのセカンドラインであるSartorio サルトリオと同じようなラインで作り上げるMP di Massimo Piombo ディ・マッシモ・ピオンボは、他のデザイナーズブランドとはまったく一線を画している。
ミシンをメインとした作りでありながらも、カッティング、袖付けや襟付けなどに始まり、ボタンホール、柄の処理など全ての仕上げが丁寧かつレベルが高く、クラシコブランドらしいディテールも欠かしていません。
肩はちょうど最近のSartorio サルトリオに見られるような、アンコンで自然なマニカ・カミーチャの入った仕立て。
これまでどんな「デザイナー服」にこんな美しい仕上げの袖付けが施されていたでしょうか。
Kiton キートンとPiombo ピオンボのコラボレーションは、奇跡のようなものです。クラシコブランドの最高峰にあるこのKiton キートンというブランドが、たった1人の世界観で完結するPiombo ピオンボというデザイナーのブランドの服を作る。
ともすると、Kiton キートンのイメージにまで影響が出ないとも言い切れないこのコラボレーションは、非常に危険な賭けとも言えるでしょう。
しかしKiton キートンはゴーサインを出し、マッシモピオンボはその美学をキートンの力を借りて表現しています。この関係がいつまで続くのかは謎です。この奇跡の瞬間を逃してしまうのは、あまりに惜しいことです。
いかがでしたか?今回は今イタリアで最も注目のブランドの一つであるMP di Massimo Piombo ディ・マッシモ・ピオンボを紹介してみました。
この美しさに共感した人、この奇跡的なコラボレーションの作品を自分のものにしたい人は、このMP di Massimo Piombo ディ・マッシモ・ピオンボを何よりも先に手に取るべきでしょう。