トラッドファッションの聖地の一つとされるナポリ。他の国はもちろんのこと、イタリアの中でもナポリにしかない技や伝統を生かしたナポリのブランドは、やはり人の心を惹き付けて止みません。
そういうわけで今回はナポリのブランドのシャツの特徴と魅力を解説していこうと思います。
大きめ&高めの襟
ナポリのシャツの特徴の一つに、襟のサイズがあります。ナポリのシャツはイタリアの他の地域のシャツに比べると幅が広く、大きめの襟であることが多いです。
これはナポリ人が「襟を感じたかったから」とかなんとか。
いずれにしても芯地が薄く柔らかいのに大きなナポリの襟は、エレガントとリラックス感を兼ね備えた絶妙なバランス。ネクタイを締めれば凛々しくとびきり美しいスーツスタイルに、第2ボタンまで開けてセンツァクラヴァッタの着こなしにすれば色気のある洒脱なジャケパンスタイルになる。こんな横着なシャツは、ナポリ人にしか作れないでしょう。
上のシャツはナポリを代表するカミチェリアであるアンナマトッツォが下請けで作っていた頃の、サルトリアアットリーニのシャツです。女性的なギャザーやプリーツが美しい、柔らかな雰囲気のシャツです。
手縫いによる縫製
こちらはナポリシャツの中でも最も有名なアンナマトッツォの袖付け部分。ヨークからアームホール、襟付け、カフスなど多くの部分が手縫いにて作られているのも、ナポリのシャツの魅力です。
例えばローマ仕立てとして、世界で最も知名度の高いブリオーニのシャツを見てみても、世界最高峰のシャツとして名高いフライのシャツを見ても、あくまでミシン縫いで作られています。もちろんそれらのシャツは、手縫いに頼ることなく素晴らしい着心地を生み出しているということで評価されていますが、やはり手縫いの暖かさを感じることはできません。
そういう意味ではやはり、柔らかい手縫いならではの伸縮性に富んだ着心地を体感できるナポリのシャツは異質ですね。
もちろん野暮ったいという意見もありますし、手縫いだから優れているというわけでもない。しかしナポリの多くのブランドはこの手縫いを恐ろしく高いレベルでこなし、素晴らしいシャツを作っている。
一度この手縫いにハマってしまうと、ナポリのシャツからは中々抜け出せません。
表情豊かなボタンホール
ナポリを代表するハンドメイドシャツブランドであるサルバトーレピッコロのシャツ、そのボタンホールを見ればナポリのシャツがどれほどの手間をかけて作られているかが分かります。
ふつうシャツのボタンホールといえば、ミシンで実用的に作り上げるものです。しかしナポリのシャツはブランドごとに個性を持った、表情の違うボタンホールを持っており、それらの多くが手縫いによって時間をかけて丁寧に施されています。
例えば上のブランド、サルバトーレピッコロのシャツは一針一針の動きが目で見えるような、非常に味のある縫い目が魅力です。職人の手がどのように運ばれていったか見えるシャツ、そんな価値のあるシャツは他にないと思います。
その一番分かりやすい象徴的な部分がボタンホールなんですね。
軽やかな着心地
ナポリのシャツの最大の魅力といえば、なんといってもその着心地です。ナポリの職人たちの経験と感性が、人間の動きを考慮したカッティングを生み出し、そこから作られるシャツは、まるで全ての動きに服がついてくるかのような魔法のような着心地を持っています。
例えば、普通のシャツを着て両腕を振り回してみると、どこかしらが引っかかってしまうものですが、ナポリのシャツを適切なサイズで選べば、まるで長袖のカットソーを着ているかのようにストレスなく体にフィットします。
極端な話、その柔らかい着心地のため、普段Mサイズを着ている人でも、ナポリのシャツではSサイズを窮屈さを感じずに着ることができることもあります。写真のシャツはアンナマトッツォのセミハンドメイドラインであるAM napoliのシャツですが、いつもよりワンサイズ小さいにもかかわらず、全くストレスなく着ることができました。
この着心地の良さは、実際にお店で試着してみないとわからないと思いますので、ぜひ試してみてください。
今回は、ナポリのシャツの特徴と魅力について解説してみました。この奥深い世界に興味を持つきっかけになれれば幸いです。