ボトムスをこだわるべき理由
ファッションに掛けられるお金があったとしたら、どういう順番で使っていくでしょうか。ジャケットから始めて靴を買い、次にジャケットのグレードにあったシャツを買い……と、つい最後に回してしまいがちなのがボトムスです。
デニムにしろチノパンにしろ、他のアイテムに比べると商品の良し悪しが分かりにくく、安いものでもそれなりに見えることが多いあたりも、ボトムスが最後に回されがちな理由でしょう。
ですが実際には、高いパンツにはそれだけの理由があります。細部の作り、シルエット、生地などブランドによって特徴があり、得意なディティールがあります。そして素晴らしいジャケットやシャツが手に入ったとき、人はそれに見合うクオリティのボトムスが欲しくなる。
何よりトップスのグレードと差がある場合にはかなり目立ちます。良いジャケットやシャツを買ったら、良いパンツを買え。とそういうことですね。
そしてボトムスは、良し悪しこそ見る人が見なければ分かりませんが、全体的なイメージを何となくお洒落にもだらしなくもする、意外にも存在感のあるアイテムです。
別に必ずしも高いボトムスを選ぶ必要はありません。今回はちょっと高級なブランドのパンツがどんな魅力を持っているか、それを紹介する意味でおすすめのブランドを書いていこうと思います。
PT05 ピーティーゼロチンクエ
お洒落でちょっと品のあるデニムが欲しいあなたにおすすめするのが、PT05 ピーティーゼロチンクエです。これはチノパンで有名なイタリアのブランドPT01のデニムラインです。難しいことはない、PT05の5は五つポケットのことですね。
最近はincotexもPT01もルーマニアかポルトガルあたりで製造しているものが殆どですが、PT05はイタリア国内でも随一のデニムファクトリーで製造しているとのこと。生地感の良さはさることながら、全体的な縫製の繊細さや洗練されているけれどもヌケ感のあるデザイン、大人びたシルエットなどがイタリアの高級デニムらしさを感じさせます。
このPT05はブラックで適度にウォッシュの掛かった色合いが綺麗です。またボタンフライとなっており、PT05の刻印が入ったカラーボタンが、普段は見えないところながら遊び心があります。この辺りは所有欲を満たすという、それはもう重要な役割を持っています。
同じような傾向のデニムとしては、Jacob Cohen ヤコブコーエンが挙げられるでしょう。あちらはテーラードデニムという新しいジャンルを打出していますが、PT05はまことにそれを意識した作りだと思います。
漂う上質感、デニムらしからぬ品の良さ。大人っぽさで他のデニムと差をつけたい人はPT05を。
INCOTEX インコテックス
あまりに定番と言えば定番ですが、まあボトムスを語る上では絶対に欠かせないブランドがこのINCOTEX インコテックスですね。スローウェアというイタリアの大手アパレルメーカーが展開するブランドで、今では日本のセレクトショップで置いていない店はないというほどの人気ぶり。
残念ながらイタリア製ではなくルーマニア製のものが殆どですが、ルーマニアだって立派なヨーロッパですから良いじゃないの。トルコ製のなんとなく胡散臭い感じとか、チュニジア製のどこだ感とか(イタリアの対岸です)、中国製だったときの残念感に比べて、ルーマニア製やポルトガル製というのは「こんなもんか」と納得しやすい。
正直作りだけをとったら、イタリアよりもルーマニアの方が良いことだってざらです。
そんなインコテックスの最大の良さは、細身の美脚シルエットです。インコテックスはテーパードを主としたブランドで、ほとんどのパンツが足のラインにピッタリと沿うような形を持っています。この沿うようなというのが肝ですね。
日本の安いメーカーのボトムスにだって、細身のものはいくらでもあります。しかしそういったものは、ごぼうのようにスリムな足の人はともかく、筋肉質な人などは絶対に履くことができません。これはそういったパンツがとにかく細く、腿の辺りが張ってしまったりするからですね。
少し前までは私自身もまた、足が太いので細身のパンツは無理だと思っていました。
しかし実際には足の筋肉質な人ほど、イタリアブランドのスリムテーパードを試すべきです。イタリアのものが全て素晴らしいというつもりはありませんが、全体的な傾向として足の形にしっかりと合わせた立体的な形状で仕上げられたパンツが多いです。
また腿の部分はしっかりと太さがあるため、不格好に張ってしまうこともありません。
そしてインコテックスはまさにそんな美しいテーパードの火付け役とも言えるブランドなのですね。色々なラインがありますが、それぞれ試して自分に最適な美脚パンツを探すのが良いでしょう。
GERMANO ジェルマーノ
まあ、知ったようなボトムスばかり紹介しても面白くありませんので、そろそろちょっとマイナーなものも紹介していきましょう。まずはイタリアの実力派ブランド、GERMANO ジェルマーノのパンツです。
イタリアの南部、アフリカ圏と言っても過言ではないくらいのコテコテの南部から少し北上したあたりにサレルノという町があります。世界最古の大学の一つとしてサレルノ大学の名前を聞いたことがある人も少なくはないはずです。ジェルマーノはこのサレルノで生まれたパンタローネ(パンツ)のブランドですね。
地図を見てみればよくわかりますが、このサレルノは実にナポリに近い。イタリアで最も治安が悪く、最も技術力の高いサルトリアが集まったナポリの影響下にあるサレルノですから、ジェルマーノの「一流の技があるが、知る人ぞ知るブランド」という立ち位置はなんとなく納得が行くところです。
さてこのGERMANO ジェルマーノのパンツの魅力はなんといっても熟れた雰囲気です。どうしてもチノパンを履くと、まるで大学生ファッションのように子供っぽくなってしまったり、あるいはお爺さんのように年寄り臭く見えたりしてしまうことが多い。
しかしジェルマーノのパンツは程よい軽やかさと美しいシルエット、それを裏打ちする縫製の丁寧さが非常に良いバランスで統合されており、若々しいのに大人びた絶妙な熟れ感があります。
なぜイタリアのチノパンと日本で一般的に履かれているチノパンはこれほどまでに雰囲気が違うのだろう?とインコテックスかPT01を右手に、その値札を左手に持ちながらうなだれた経験があるでしょう。
様々な要素から生み出される熟れ感の差です。
イタリアのチノパンにはまるで、「ファッションを知り尽くした上で、このチノパンが今のコーディネートに合うから履いている」と納得させるような説得力があります。それに対して普通の日本で売られているチノパンは「何を履けば良いか分からないから、とりあえず定番ということでチノパン」というような雰囲気です。もちろん物にも寄りますが、特にイオンや安いブランドで売っているチノパンはそういうものが多い。
じゃあ熟れ感って何のことだよって話ですが、これもまた物による。このジェルマーノのパンツに関して言えば、生地感こそがその熟れ感の理由ではないでしょうか。
すでに100回履いて丁寧に80回洗ったよ、というような慣れた雰囲気のコットンが、ほどよくしっかりとしながらもリラックスした手触りを生み出している。こういった丁寧に使い込まれた雰囲気は、イオンやユニクロのパンツでは中々見つけられません。買って履き込もうにも、このような熟れ感が出る頃には、スレや汚れでボロくなってしまうことも殆どですし、コットンの生地の質も違いますので、やはり難しいでしょう。
そういうわけでイタリアのチノパンが選ばれるわけですね。そしてその中でもジェルマーノ、コストパフォーマンスも良くおすすめなんです。
ちなみにコインポケットは手縫いです。
嘘です。盛大にほつれてきたので自分で縫って、晴れてハンドステッチ仕様となりました。これだからイタリア製はやめられませんね。
DIESEL ディーゼル
DIESEL ディーゼルは言わずとしれたデニムブランドですね。今更紹介する必要もないかもしれませんが、知らない人もいるかもしれませんので改めて。
イタリア発祥のファッションブランドで、デニムをメインとしながらレザーアイテムや靴など様々なものを展開しているカジュアル系のブランドです。基本的にスキニーが得意で、ものによってはかなりアバンギャルドなデザインのものもあります。先ほど紹介したPT05やJacob Cohenのように上品なデニムというよりは、面白みのあるデニムが得意ですね。
と言っておいて、まあ地味なデニムの写真ですね。こちらはDIESEL BLACK GOLDというブランドラインのもので、光沢感のある糊の利いた風合いが特徴のデニムだったはずが、洗っているうちにスタンダードで使いやすいデニムになりました。
普通っぽいとはいえ生地感は独特で、左右の糸が浮かび上がるような立体感があり、各所にアタリもあります。またスキニーのシルエットは美しく、現代的です。
ちなみに世の中の宗教が三大宗教だけだと思ったら大間違いで、世界には実に多くのマイナーな宗教があります。そのうちの一つがディーゼル教と呼ばれるものですね。これらの人々の中には穏便派もいれば、過激派もいます。特に過激派はディーゼルの店員さんであることが多く、あまりのスキニー愛から、「ぜんぜん入りますよ♪」と言いながら普段32インチを履いている人に29インチを履かせようとしたりします。
ちなみにそのとき一緒にいた友達も隠れディーゼル教徒だったりすると、「うん、いい感じじゃん。いけるいける」とか言われることになります。
Facis ファチス
いよいよ最後ですが、最後は「大人になれる本」の実力発揮ということで、日本ではほとんど入手不可能なFacis ファチスのパンツを紹介しておきましょう。どこで手に入れたって?そりゃもちろんイタリアよ、ふふふ。
さてそのFacis ファチスのパンツですが、イタリア製であり、さらにハンドステッチまでもが入った手の込んだ仕様でありながらも、100ユーロ代で買えるというコストパフォーマンスが魅力です。
こんな感じで、AMFステッチが入っています。これは国内では3万円程度の別注仕様のPT01などに見られる仕様ですが、上の写真で見るようにパンツの横のラインに合わせて足先までステッチの入っているパンツは珍しいです。
結果として非常に自然なシワが入り、適度なカジュアル感が出ています。またハンドメイドっぽい印象もあり、装いのレベルを一気に上げてくれることが期待できますね。シルエットもまた定番のスリムテーパードで、非常にスマートですっきりとしたボトムラインを実現してくれます。
ちなみに日本未発売と言いつつも唯一、例のイタリア発オンラインセレクトショップであるYOOXで購入することが出来ます。facisと検索してみてください。
いかがでしたか?
今回は少し高級なものも含め、高品質なパンツで注目されているブランドを紹介しました。
これを参考に、全体のコーディネートのレベルを一気に上げてくれるようなボトムスを、とりあえず一本手に入れてはいかがでしょう。
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