米国FRBがFOMCで利下げをしたのに、なぜTMFが上昇しないのか?

経済・投資

数ヶ月前、私は米国FRB(連邦準備制度理事会)がFOMC(連邦公開市場委員会)で4年半ぶりに利下げを行う可能性が高いとの予測をもとに、ある金融商品を購入しました。

当初、米国の20年以上の長期国債を中心としたETFiShares 20+ Year Treasury Bond ETF (TLT)を購入しようと考えていました。しかし、利下げが実施されることで日米の金利差が縮小し、ドル安が進むと予想されました。そのため、価格変動が比較的穏やかなTLTでは、円高が進むと利益が得られないと判断しました。

そこで、TLTよりもさらに価格変動が大きいETFDirexion Daily 20+ Year Treasury Bull 3X Shares (TMF)を購入しました。

数ヶ月保有した結果、わずかに価格は上昇しましたが、購入時のドル円相場が1ドル150円から155円の範囲で為替換金してしまったため、現在の1ドル143円のレートではトータルで若干のマイナスとなっています。

私の予想では、米国FRBがFOMCで利下げを決定すると、利下げ前の高金利の米国長期国債を購入したい投資家が増え、それに伴ってレバレッジETFであるTMFも上昇すると考えていました。しかし、実際にはFRBの利下げにもかかわらず、TMFは期待したほどの上昇を見せませんでした。

逆イールドの影響

また、現在の状況には「逆イールド」の影響も考慮する必要があります。

逆イールドとは、短期金利が長期金利を上回る現象のことで、通常は景気後退(リセッション)の前兆とされています。現在、米国のフェデラルファンド金利は4.75%から5.00%の範囲に設定されており、短期金利が高止まりしていましたが、最近、逆イールドが解消され、順イールドに戻りました。

しかし、逆イールドが解消されたにもかかわらず、TMFが期待したほど上昇していない背景には、市場がまだリセッションに突入していないと判断していることが影響しています。市場は、リセッションが発生すると通常、国債が安全資産として買われ、長期国債の価格が上昇する傾向があるため、TMFのようなレバレッジETFも上昇するはずです。しかし、現時点ではリセッションの懸念がそこまで強く認識されていないことが、TMFの上昇を抑えていると考えられます。

さらに、インフレの再燃も市場で懸念されています。インフレが再び高まる可能性があると市場が予想しているため、長期金利が上昇し続け、これがTMFの価格上昇を抑制している要因とも考えられます。インフレが再び高まると、中央銀行が再度利上げを行う可能性があり、その結果、国債価格の下落が懸念されるため、長期国債の需要が伸び悩むことになります。

長期金利の動向と短期金利のズレ

FRBの利下げは短期金利に直接影響を与えますが、TMFが投資対象としているのは20年以上の長期米国債です。

長期金利は短期金利と必ずしも連動するわけではなく、経済の先行きやインフレ期待、財政政策などが長期金利に影響を与えます。利下げが発表されても、長期国債の金利が下がらない場合、国債価格が上昇せず、TMFも上昇しない可能性があります。

レバレッジ商品特有の減価と逓減(ていげん)

TMFのようなレバレッジETFは、基準となる資産の価格変動を3倍に増幅させることを目的としていますが、これには逓減(ていげん)、コンパウンド効果という現象が伴います。レバレッジETFは毎日リバランスを行うため、日々の価格変動に対してレバレッジがかけられますが、変動が激しい場合、リバランスが繰り返されることで、最終的に価格は減価してしまいます。

具体的には、例えばTLTが1%上昇した日があれば、TMFは3%上昇しますが、次の日にTLTが1%下落した場合、TMFは3%下落します。このような日々の上下動が繰り返されると、長期的には資産価値が減少してしまいます。

このため、TMFのようなレバレッジETFは長期保有に向かないとされています。短期間での投資や特定の市場イベントに対して賭ける際には有効かもしれませんが、長期保有すると逓減の影響で期待される利益が得られない可能性が高まります。

関連記事:逓減とか減価って何? / 大和アセットマネジメント株式会社

オプション取引による影響

TMFはTLTの動きを単純に3倍にするのではなく、オプション取引を利用してレバレッジ効果を生み出しています。

オプションにはデルタという価格変動の感度を示す指標があり、TLTが1ドル上昇してもTMFが必ずしも3ドル上昇するわけではありません。加えて、オプション取引には時間価値やボラティリティが関与しており、これらの要因もTMFの動きに影響を与えます。

市場全体のセンチメント

利下げは一般的に国債価格を押し上げる要因となりますが、場合によっては市場が利下げをネガティブに受け取ることもあります。例えば、利下げが経済悪化のサインと捉えられた場合、長期国債の需要が低下し、金利が上昇してしまう可能性があります。

金利が上昇すると国債価格は下落し、それに連動するTMFも下落します。また、インフレ懸念が残る場合には、国債への需要が減少することもあるため、利下げだけではTMFの上昇が見込めないことがあります。

利下げをしたのに、なぜTMFが上昇しないのか?

TMFがFRBの利下げにもかかわらず上昇しない理由は、短期金利と長期金利の乖離、レバレッジETF特有の減価と逓減効果、オプション取引の影響、そして市場全体のセンチメントが複雑に絡み合っています。また、逆イールドの解消が景気後退の兆候である可能性も加味する必要があります。

特に、レバレッジETFは短期的な投機的取引には有効ですが、長期保有には不向きであることを理解しておく必要があります。長期的な資産運用においては、TMFのような商品よりもリスクが少ない選択肢を検討する方が賢明です。

ただし、TMFのようなレバレッジETFは、突然大きく上昇することもあります。そのため、減少するリスクを十分に理解しつつ、資産の一部をTMFに投資しておくことも一つの戦略です。このように、短期間の価格変動を狙った投資手法として、一部のリスク許容度が高い投資家には魅力的な選択肢となりそうです。

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