今から20年ほど前、『キレる17歳』という言葉がワイドショーで話題になりました。酒鬼薔薇事件を始めとした少年による事件が多発して、「今の若者はキレると何をするか分からない」といった風潮さえありました。
メディアでは「今後、少年犯罪が増加する」と警鐘を鳴らしていましたが、SNSやLINEを使った陰湿なイジメこそ急増しましたが、暴行事件や傷害事件、無免許運転やカツアゲなどの非行はすっかり少なくなり駅前でたむろする非行少年も姿を消しました。
少年がキレるのは昔の話で、今もっともキレるのは高齢者です。つい先日も、東京・あきる野市の電車内で、乗客の男性にカッターナイフを突きつけた69歳の女性が逮捕される事件が発生しました。超高齢化社会が原因かもしれませんが、実際に日用品店や飲食店、駅にいても怒っている高齢者を見かけることがおおいです。
そこで、なぜ高齢者がキレるのかを考察してみました。

50年前と今では環境が変わっている
コンビニの年齢確認で、「俺が未成年に見えるのか?あ?!おい!」と高齢者がキレるとSNSで話題になっていますが、男性だけでなく女性つまりお婆さんが怒ることも増えました。つい先週、筆者が見かけた光景をお話しましょう。
郵便局で手続きをしていた80歳程度のお婆さんが、本人確認資料が無いと手続きが出来ないという説明を受けて怒り狂っていました。一部始終しか見ていないので、どの資料が必要だったか明確ではありませんが、局員の説明を耳にしたところ手続きには「本人のマイナンバー」が必要になるようです。
「あなた私に嫌がらせしたいでしょ!」「こんなの見れば分かるでしょ、私が手続きしているの?」「なんで融通がきかないの?」と次から次へと嫌味や罵詈雑言が続き、郵便局内はすっかり静まり返って全員がお婆さんを注視していました。
少なくとも平成生まれの人であれば、「手続きにマイナンバーが必要です」と説明されれば、「そうなんだ忘れちゃったから取りに帰ります」だとか、「マイナンバーいるのか。発行してないから手続き面倒だなぁ」といった言葉になるはずです。改札を通るのにパスモが必要なのと同じように、ゴネても手続きできないということが簡単に理解できます。
80歳も過ぎた高齢者になると、20代から30代のときは半世紀以上も昔になります。高度経済成長期の1970年代ではマイナンバーカードはもちろん、今のように厳格な本人確認資料は不要だったかもしれません。平成元年生まれの私が幼い頃に銀行に連れられたときも、「口座開設には本人確認書類が必要です」とポスターが貼り付けてありました。パソコンや印刷機が今よりも普及していませんし、田舎の小さな郵便局や信用金庫などでは顔パスで色々な手続きができたかもしれません。
手作業で戸籍を管理していた時代は出生届けの改変など、今では考えられないほど管理が杜撰だったようです。
戦後の立ち直りを生まれ育ち、長い時代を過ごしてきたものの新しい規則やルールなどに対応していくのが難しいくなって怒ってしまっているとも考えられます。
高齢者になってスマートフォンを覚える方もいるので一概に「高齢者=思考が昔で固まっている」とはいえません。ただし21世紀に入り、時代の変化はさらに凄まじいものとなっているのでついていけない人がいても仕方ありません。
自分の中の正義を遂行する、リミッターが壊れた人
つい先日、アナウンサーの徳光和夫さんが、YouTubeで配信された番組で「(明石家さんまさんは)AKBの1人や2人は妊娠させられる」とセクハラ発言をしてしまい炎上してしまいました。徳光和夫さんは80歳という高齢者に当てはまりますが、社会的地位が高く頭脳明晰な方ですが高齢になると分別がつかなくなってしまうようです。
本来思っていても「これは言ってはいけない」と口をつぐむことができます。女性の年齢や容姿を指摘するだけでセクハラになる時代で、早く結婚した方がいいと口にするだけで炎上してしまうのに、ここまでひどい失言をしたのは、脳内で思っていることがリミッターが壊れているのでそのまま出てしまっているからです。
日用品店やドラッグストアでも普通な60代前後の女性が「何で無いの?この前はあったじゃない」「今必要なの?分かるでしょ」「じゃあ別の店で買えってこと?」と怒っているのを何度も見かけます。
デパートのカフェでは50代後半の女性が「いつまで掛かってるのかしら?」「わざわざアラビアまでコーヒーを取りに行っていたのかしらね?」とグチグチ嫌味をいっているのを見かけました。

「バカにしてるでしょ」が口癖の怒りクレーマー女性
すっかり恥ずかしくなってしまうようなことを、自分の中の正義として声を荒げて主張しています。それも店舗のルールで決まっている事や、在庫の有無、商品提供が遅くなった、など些細なことでバイトに怒鳴って「私をバカにしているでしょ」と怒りをぶつけています。これは統計ではなく筆者の体感的な感覚ですが、60代のキレるオジサンは、怒りが短く2~3言なにが気に入らないか怒鳴って立ち去ることがおおいです。
三井住友銀行のある支店で「必要だから列があるんだろ?列に並ばせるのがあんたの仕事でしょ?」と声を荒げ、近くの責任者に報告して立ち去ったオジサンを見かけましたが、「バカにしていたでしょ!」と個人を批判する女性に対して、「お前は自分の仕事を遂行していない!」と怒っていました。男性にも感情的で長く怒る人もいるかもしれませんが、男女に怒り方の違いがあるように思えます。
加齢での疎外感や孤独感から生じるジコ中「中高年」
販売の仕事をしている知り合いに聞くと、中高年の自己中具合はなかなかひどいもので例えば次のようなことがあるそうです。
- 小銭をひっくり返して、ここから取れという
- 早くしてと梱包を急かす
- 売り切れに対して嫌味をいう
- 俺は○○駅から、ここまで10km以上も歩いてきた〜云々
- 列が並んでいるのにも長話をするお婆さん
- 一人様限定1個の商品を複数買おうとしてキレるお爺さん
- キレたお爺さんに特例的に2個売ってしまい欠品になり、後のお客さんにも愚痴を言われる
などなど、動物園か!と思えるほど自己中な中高年が多いそうです。
リストの後半は特に可哀想で、「2回並んだら2個買えるんだろ?なら何でいま売れないんだ!この前の○○○店では同時に買えたぞ!」と粘着質な高齢者に絡まれてしまい、列も出来て他の人を待たせてしまったプレッシャーで特別に2個売ってしまったそうです。すると商品が欠品してしまい、列の後ろのオバサンに「コレ欲しかったのに、なんだ何個も買えるのね!」と嫌味をいわれたそうです。
この話は可哀想で、警察を呼ぶほどの大事ではないですし、弁護士に民事をするようなトラブルでもありません。しかし、会社のイメージもあるのでお客様に「規則は規則です!お引取りください」と強い口調で退店させるのも難しく、それをすると更なるトラブルに発展する可能性もあります。粘着質なお爺さんがバイト終わりに待ち伏せしていても、誰も守ってくれません。
なし崩し的に2個販売して、それを後ろのお客様に怒られてしまったわけです。この話を聞いて「自分ならどうする?」と考えたのですが、若い女性のワンオペバイトで実現出来る対応としては仕方なかったのではと思ってしまいます。

自分がキレる高齢者になる?予備軍にならないために
先ほどの高齢者とは別の郵便局ですが、60代の女性が職員に対して「あんたバカにしてるでしょ?」「今めんどくさいなって小声で言ったでしょ?表でろよ!」「おい、お前。表でろ!!!」と声を荒げている女性を見かけたことがあります。もし警察沙汰になったら職員が可哀想なので、後ろから動画をこっそり撮影して警察が来たら事情説明をしてあげようと思いました。
しかし、そう思う直前まで不条理に職員にあたり続ける女性を目の前にして「お前の方が迷惑な野郎だな!!俺が表に出るから、お前も出ろ!」とオバサンに喧嘩をふっかけてしまいそうでした。ぐっと我慢して警察沙汰にならずに済んだのですが、後から冷静になって思い返すと、業務上言い返すことができない職員に対して不条理に罵詈雑言をぶつける女性にたいして、私自身も怒っていて『自分の中の正義』を遂行してしまいそうだったのです。
あわや「キレる高齢者にキレる30代」になってしまいそうでしたが、私もまたキレる高齢者と同じように自分の中の価値尺度で怒っていたので、加齢と共に環境に適応できなかった場合、先ほどの人たちと同じように「キレる高齢者」の仲間入りしてしまう可能性があるのです。
ある役所で、番号札を渡されて「手続きに時間かかるな〜」と思って文庫本を読んで40分待ったのですが呼ばれることがなく、「まだですか?」と確認したら、「あっ、こちらどうぞ」と案内されてキレかけました。
「画面に番号札が出たら窓口に行くんですよね?番号アナウンスも画面にも表示されていないのですが!!」と大声でまくし立てたい気持ちになりましたが、ぐっと我慢して「40分待った私が馬鹿だった!次から5分ごとに担当者に確認しよう」と心に決めました。こうしてせっかちなウザイ人が生まれるのだなぁ〜と実感。
この件も担当者の「お待たせしてすみませんね」の一言で、1000の怒りが5くらいに収まるのが人間の不思議。あれから、私は悪くない!と思っているときでも、少し謝るように癖つけています。
『自分の中の正義』で怒る高齢者にならないために自戒
自身の行いを振り返ってみたのですが、「選挙カーが家の前に止まってうるさいときに、怒鳴りそうになった」、「電話口の本人確認で干支を聞かれて怒ってしまった」、「不動産屋のフリをしてウォータサーバーを売る営業に怒った」などなど、自分の中の正義を基準に怒りそうになったり、実際に怒ったことがあります。
仕事で集中しているときに選挙カーが家の前に止まって、全ての窓を締め切ってカーテンをして音楽をしているのに、音楽が全く聴こえなくなるほどにうるさいのです!コレにはブチギレて、窓から同じ音量で怒鳴ってやろうと思いましたが我慢しました。
2つ目は、住所や電話番号、年齢など様々な本人確認をした後に「最後に干支を教えてください」といわれて、久々に聞かれてすっかり忘れていたので、「そんなん検索すれば誰でも分かるでしょ!!」と怒ってしまいました。先ほどの店員さんに当たる高齢者と大差なく、電話口の人が嫌がらせしたいわけでなく、マニュアルに載っているので仕方なく聞いているものです。すかさず、「すみません分からなくて、今検索します」と謝ってネット検索して伝えました。
3つ目は、賃貸の管理会社から「大切なお話がありお電話しました……」と掛かってきて、色々な前置きを聞くと「というわけで、プレゼントとしてウォーターサーバを無料で設置できます」と電話して2~3分経ってから、コレが営業電話だということに気が付きました。
怒るというよりは「はぁ〜くっだらな」と無言で無視していたら、「ウォーターサーバはいらないですか?」と聞かれたので、興味ありませんと断って切りました。話が予想外すぎると呆れてしまい、ひどい対応を取ってしまうのだなと反省しました。
「人の振り見て我が振り直せ」とよくいったもので、自分の中にも高齢者と同じような怒りのメカニズムが組み込まれている事に気がついて驚きました。アメリカと中国、北朝鮮のように『自分の中の正義』は立場によって変化します。キレる高齢者にならないように今から注意していきたいです。