酒屋で売られているウイスキーのほとんどは、飲みやすく加水されてアルコール度数が40~43%前後に調整されています。最近ではアランモルトが46%でボトリングするなど、少しずつアルコール度数が上昇傾向にあります。
「カスクストレングス」や「ハイプルーフ」はほとんど同じ意味で、樽から出したままのウイスキーでアルコール度数が高いのが特徴です。「カスクストレングス」はカスク=樽から出したままのウイスキー、「ハイプルーフ」とはアメリカやイギリスで伝統的にアルコール度数を表す際に使われる単位のプルーフ(アルコール度数)が高いという意味で使われます。グレンファークラス105などは、アルコール度数が60%に当たる105プルーフなので名前に付与されているわけです。
なぜアルコール度数の高いウイスキーがある?
ウイスキーというのは大麦が原料になり、それを発芽させて麦芽にして、それを砕いたものに水をたしてモロミというビール状の液体にします。それをポットスチルによって加熱して、アルコールの部分だけを取り出すのです。
その無色透明なアルコールをニューポットと呼びます。アイリッシュウイスキーなど蒸留する回数や製法による違いで度数は様々ですが、ニューポットは70%近いアルコール度数があります。
それを加水して63.5%程度までに薄められて木樽に詰められるのです。ウイスキーというのは長い年月と共に熟成が進む飲み物ですが、木樽と接触して緩やかに酸化したり、木樽に染み込んだ成分がニューポットに溶け込んだり、何らかの分解作用が起きているといわれています。
難しいのがアルコール度数が高すぎても低すぎてもダメで、ちょうどよいのが63.5%前後というわけなのです。
カスクストレングスでもアルコール度数が違うのはなぜ?
カスクストレングスのウイスキーを買っていると、あることに気が付きます。ボトルごとに度数が違うのはどうしてだろう?
それはウイスキーの熟成年月や保管場所、樽のサイズなどによってアルコールや水の揮発が異なるためです。保管庫の湿度や室温にも影響を受けて、海の近さなども関係しているそうです。
一般的には「エンジェルズシェア(天使の分け前)」といい、年間2~3%が樽の中から減ってしまうといわれます。多くの場合は沸点が低いアルコールの方が先に揮発してしまうので、樽の中のアルコール度数が下がってしまうといいます。保管環境によっては、水分が先に蒸発してアルコール度数が上がることもあるというのが驚きです。
アルコール度数の高いウイスキーのメリットは?
このようにアルコール度数の高いウイスキーがある理由を解説してみましたが、そもそも何のメリットがあるのか、それはアルコール度数によって味が大きくことなるためです。
カスクストレングスのウイスキーは、香気成分が最も溶け込みやすい60%前後で保管された状態で詰められているので香水の原液のような状態になっています。
市販の加水されたウイスキーは香水でいうオーデコロンのように調整されてすぐ楽しめるようになっています。
カスクストレングスはボトルを抜栓しても直後はニオイが全然しなかったり、固いニュアンスがあって美味しくなかったりします。モルトバーの中では、口切り(ボトル開けたて)を好まないお客さんも存在するほどです。60%近いハイプルーフのウイスキーでは、ボトルのキャップを開けてから1~2ヶ月。熟成期間が非常に長い20~30年という長期熟成のウイスキーに至っては、本当に美味しい香りと味わいになるまで抜栓して1~2年かかるものまであります。
個人的な経験上ではシェリーカスクのウイスキーよりも、バーボンカスクのウイスキーの方が香りが開くのに時間がかかります。手練れのバーテンダーの中には、ハイプルーフのウイスキーをデキャンタージュして別のボトルに移し替えすことを繰り返してすぐに飲めるようにする人もいるくらいです。
もし特別な日に、カスクストレングスの本格的なウイスキーを買ったのであれば、ゆっくり時間をかけて数ヶ月、数年という単位で楽しむのをお勧めします。