神々の繊維 ビキューナのコートを体験しよう

こんにちは、ライター田中です。

すっかり寒くなって冬も深まりつつありますね。みなさんのコートもすでに大活躍されていることでしょう。

さて、そんな冬模様に素晴らしいネタを持ってまいりました。カシミアを超える素材、ビキューナです。

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生地の良さを突き詰めると、どこにたどり着くのか?

まあなんと申しますか、生地の世界は至ってシンプルで、極めていくと二つの終着点に行き着くわけです。

とろとろか、ごわごわか。

これはいわばお米を炊くときに柔らかめに炊くのが好きか、かために炊くのが好きかといった具合の「好み」の問題なのです。

ごわごわ、というのは語弊のある言い方ですが……イギリスのスーツに多く見られるようなずっしりとした生地は、長く使い込むことができたり、それによって風合いが増したりという魅力があります。そのようなずっしりとした生地が、一つの行き着く先です。

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英国のヨークシャー地方で織られるウール生地、ツイードなどがこういった魅力を持っています。

それとは別にもう一つ、生地の柔らかさを求める方向性があります。

生地は柔らかさをつきつめていくと、原毛がどんどん細くなっていくものです。SUPERという表記でいえば180、200と数字が大きくなっていき、micronという表記でいけば数字は15、14と小さくなっていきます。

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ロロピアーナに代表されるイタリアの生地ブランドが得意とする方向性ですね。

そうしてそういった原毛の細さ、そこからくる質感の柔らかさで他の全てを凌駕するといわれているのが、ビキューナなのです。

神々の繊維、ビキューナとは

Loro Piana 公式サイトより
Loro Piana 公式サイトより

さて、やっと本題です。

このビキューナというのは南米のアンデスで野性に生きる、ラクダ科の小さな動物です。見た目はアルパカに似ていますが、太陽の光に当たることで黄金色に見える毛をしており、その佇まいは生きているだけでそれはもうエレガントなのですね。

そんなビキューナは昔からインカ帝国で神聖な動物として大切にされていましたが、スペインの侵略やその後の密猟乱獲によって激減し、一時は絶滅の危機に陥りました。

しかし先にも出たロロピアーナの活動もあって、頭数を復活しつつあるヴィキューナの毛は、今では最高級かつ最も希少な繊維としての地位を得ました。

2年に一度だけ、特別な儀式を行って収穫されるビキューナの毛。しかも一匹から100〜200グラムの繊維から取れず、一着のコートを作るのに35頭分の毛が必要といわれています。

その年間生産量はコートにして約350着分しかないとのこと。ちょうど世界中の「裕福」で「着道楽」で「柔らかいものが大好き」な人々の数とピッタリ合う計算ですね。

金額はロロピアーナならばコート1着で300〜400万円、一般的なテーラーであれば200万円くらいで仕立ててもらうことができます。

そして、実際に購入してみた

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さて、そういうわけでビキューナのコートを実際に購入してみました。

なんて言ってはみるものの、大人になれる本のような弱小ウェブマガジン編集部の分際でピュアビキューナのコートを購入できるはずがありません。

「大人になれる本編集部 神々の繊維代として」と書かれた領収書を持って、慇懃な態度で経理部に行っても「それは自費でお願いします」と箒で掃き出されるのが関の山というわけです。

まあ、景気づけに一杯やりましょうよ。
まあ、景気づけに一杯やりましょうよ。

ですからここはエコノミーに、ということで90%のカシミアにビキューナが10%入ったコートです。仕立ては最高峰の既製服ブランドであるキートン。まあ十分に贅沢なものですな。

まず特筆すべきはその光沢感でしょう。

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カシミアシルクにもない深く上品な光沢感は、まるきり宝石のよう。ここだけの話某イギリスの生地メーカーが開発したダイヤモンドチップ入りの生地よりも「宝石らしく」感じるのは、精神的な要因によるものかもしれません。

そして気になるその手触りは、驚くほど滑らかでありながら、ややふんわりとした感じ。例えば私が個人的に好きなカシミアシルクの混紡生地も非常に滑らかですが、ここまでふわりとした感触はありません。

原毛が細いせいか、ビキューナの生地はふわりと軽く、両手で持ってちぎってしまえそうな繊細さを持っています。

ちなみに実を言うと、以前馴染みのテーラーさんのところでビキューナ100%の生地も体験させてもらったことがあるのですが、やはりより柔らかく、ふんわりとしていますね。

ビキューナは我々に必要なのか?

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今回はビキューナを紹介してみましたが、いかがでしょうか。

この最高級の生地の良さは、やはり触れてみること、そして着てみることで体験するのが一番でしょう。

しかし値段が値段ですから、その必要性に疑問を持つ人は少なくないでしょう。

個人的には(特にコートに用いる場合)シルエットがしっかりと決まりやすい少しハリのある生地が好みのため、ビキューナを選ぶ必要性は低いように感じました。……もちろん裏地についたビキューナ・ペルーのタグを見てにやけるのは、このうえのない喜びですが。

とはいえ最高の贅沢を知ってみたい、もっとも柔らかい生地でコートを仕立ててみたい、そんなあなたには、やはりビキューナでしょう。

もし機会があれば、ぜひみなさんも体験してみてくださいね。

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著者 ライター田中

平成3年生まれ。
メンズファッションを主に執筆しています。

愛車はBMW M5など。