雨の降る日曜日の朝は、Mario Talarico『マリオ・タラリコ』の傘で

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日曜日の朝が雨ならば

土曜日の夜、無音のサッカー中継と、体の芯まで振動するような音量の何年か前のBBC音楽ラジオが流れるブリティッシュパブで、気の置けない友人達とひたすらギネスビールを飲んで、無駄騒ぎをする。ふらつく足で家に帰って目を閉じる。

目が覚めたら、窓の外は雨。

ちょうど『レキシントンの幽霊』たちが騒ぎ立てた夜が明け、ケイシー邸で目覚めた主人公が感じたような孤独と、静寂を感じる日曜日の朝。

そんな朝は部屋でくすぶっているよりも、軽い着心地のジャケットを引っかけ、すぐに外に出るといいでしょう。そしてその右手には、木のハンドルがしめった雨の日の空気でしっとりと手に馴染むハンドメイドの傘を。

うっそうとした雨の日が、静かに心の踊る散歩日和の一日になるはずです。

地中海の街ナポリの陽気な傘

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老舗の傘ブランドで有名なのは、イギリス。フォックスアンブレラスを筆頭に、傘で有名なメーカーが多数存在しており、日本でもマニアックな人々の憧れの対象になっています。

しかし年中通してしとしとと雨の降るイギリスではむしろ「誰も傘をささない」なんて言いますが、確かにその通り。

スコットランドの首都エジンバラにいたときには、朝から雨が降っていても傘を持たない人が多く、傘を差しているのはほとんどが観光客でした。

「じゃあ傘はいらないじゃん!」と思ってしまうのはいけません。なぜならば、イギリスの身分の高い人々にとって傘はステッキの変わりでもあるからです。重厚なステッチが時代の潮流で敬遠され始めたとき、寂しくなった紳士の手に安心感のある重みを与えたのが良質な傘なのですね。

そういうわけで、現在でもイギリスのブランドの作る傘は非常に紳士的で、落ち着いた気品高さを持っています。ビスポーク仕立てのスリーピースのチョークストライプスーツに、エドワードグリーンの靴。そんな完璧な装いに合わせるべきなのが、そういったイギリス傘です。

しかし『大人になれる本』がおすすめするのは、もっと軽妙で洒脱なイタリア的ジャケパンスタイルに合う茶目っ気のある傘。持っていて「可愛い傘ですね!」と言われてしまうような、そんな傘です。

そういうわけでこちらのナポリ傘。Mario Talarico マリオ・タラリコです。

たいして雨も降らない地中海都市のナポリの職人が、南イタリアの木や世界中の希少な木材で作る傘は、自由そのものだけど美しい。素材の表情を生かして職人が手で作り上げ、全てが世界に一本しかない傘としてコレクションになっていく。

今回はそんなMario Talarico マリオ・タラリコの傘を紹介しようと思います。

Mario Talarico マリオ・タラリコ

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ナポリのショッピングストリートであるトレド通り。

プレビシート広場からムゼオ(博物館)の方向に向かい、バルバやタリアトーレ、エトロなどを扱うナポリの人気セレクトショップであるアントニオバルバーロや、キートンやフライを扱うオールドイングランドの横を抜けてしばらく歩いている間、左手には危険地区とされるスペイン地区の東側面が常に接しています。

その一角、大きな建物の奥まったところに、ちょうど日本のタバコショップ程度の大きさの、傘ばかりを置いたショップがある。

それがマリオ・タラリコのお店です。

うえの写真のMario Talarico マリオ・タラリコの傘は私、ライター田中がイタリアのナポリで購入してきたものです。

恥ずかしながら自分はそのときこの素晴らしい傘ブランドの存在を知らず、タラリコの店舗を偶然見つけて、購入して宿に帰ってからそのブランドについて詳しくを知ったわけです。

マリオ・タラリコの傘は今でも職人が一本一本作り上げていることで有名です。

1860年に創業し、かつてはブルボン王家のためにステッキや様々なアクセサリー等を作っていたタラリコですが、現在は傘(及びステッキ)を専業とし、完全に唯一無二のコレクションとして傘を作るブランドとしてイタリア中の貴族、王族、そして洒落者達に愛されています。

最もキャラクタリスティックな製品は、シルクを使った傘。ハンドルは木材のものや、動物の角などを使用したものなど様々で、デザインもシンプルなカーブ、動物をあしらったもの、ステッキ状のものなどがあります。

こちらの傘はナポリよりもさらに南、リゾート都市であるソレントの檸檬の木をハンドルに用いたオーソドックスな傘。風の強い日本の雨天と使い勝手を考えて、シルクではなく通常のナイロン生地のものを選んできました。

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まるでネクタイのような小紋柄のグリーンのキャノピーが、檸檬の葉のような色合い。ハンドル部分は木の表情を生かしたものになっています。カーブ以外には殆ど加工されていないとも言えるかもしれません。

フォックスアンブレラスのような丹精で品のある佇まいも魅力的ですが、ジャケパンスタイルに外しをきかせてくれるような、タラリコのアクセントになるハンドルは『大人になれる本』のイチオシです。

こちらは骨組みは金属、メインのバーは木製とハイブリッドな作りでフィットアップと呼ばれるものですが、ものによってはワンピースでつながったものなどもあります。これはソリッドと呼ばれており、非常に高級感のある作りですが、日本の高温多湿な気候ではゆがみ、膨張などでうまく機能しなかったり、故障してしまう場合もまれにあるようですね。

それにしても、タラリコのショップで傘を選んでいるときに思ったことですが、本当に一本一本仕様も表情も違います。

同じ長さ、同じ値段設定のところから何個か傘を拾い上げてみても、一つは樫の木、一つは檸檬、一つはクルミと実に様々。同じグリーンのキャノピーのものは他になく、色も木材も違うものがバラバラとラインアップされていました。

そのため日本にインポートされてきているものも、やはり同じような様子です。一種類につき一本の入荷、しかも少数といった具合です。日本ではストラスブルゴなどで時より取り扱いがあるようですね。

非実用的な傘を持とう!

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傘はあくまで実用品です。風が吹けば折れてしまうかもしれないし、デザイン性が強く重い傘を長時間持っていれば、確かに普通の傘よりも疲れてしまう。タラリコの傘を「ごめん、ちょっと持ってて」なんて言って女の子に持ってもらった日には、「重っ!」と驚かれてしまいます。

しかしそれでもタラリコの傘はやめられない。

男はそれが非実用的であればあるほど惹かれてしまう、間抜けな生物だからですね。そしてこんなふうに美しく、世界に一本しかない傘を持って歩いている時間といえば、まるきり傘のためにあるのか持っている人のためにあるのか分からないような間抜けな時間です。

それがたまらなく楽しい。

もちろん格安のビニール傘は手軽だし、忘れてきたって、壊れたって何も思わなくて済む優れものです。

しかし待ちに待った日曜日の朝に、目覚めて窓の外で雨が降っていたそのとき。そのとき傘立てに憂鬱な壊れかけの透明の傘があるのか、マリオ・タラリコの世界に一本の傘があるのか。どちらが自分の心をわくわくさせてくれるでしょうか?

美しいシルエットのナポリ仕立てのコットンジャケットと、ロータのパンツに合わせる傘は?

それを考えてみると、マリオ・タラリコの傘はどんな実用的な傘よりも、雨の日の人の心を元気づけてくれる。どうやらこれは間違いないようです。