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なぜ50万円のスーツが売れるのか??

世の中のサラリーマンの実に7割以上が、3万円以下のスーツを着ています。

7万円以上のスーツを着ているのは全体のたったの10%に満たず、さらに10万円以上になれば、たかだか1〜2%が身につけるのみとなっています。

しかしトラッド系ファッション雑誌をめくれば、そこに掲載されているスーツは20万円なら安い方で、30万円ひいては50万円という値段設定になっています。

そのうえ、50万円のスーツというのはなにも法外な値段だったり、見栄を張りたい成金な人が買うスーツだったりというわけではないのですから驚きです。

ではなぜ、ほとんどの人が3万円以下のスーツを着ている中、50万円のスーツが売れるのか?今回はそれについて考えてみましょう。

本来スーツとは何なのか?

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さて、50万円のスーツについて考える前に、まずは多くの人が着ているスーツそのものについて、もう少し考えてみましょう。

そもそもスーツというのは前世紀に、英国の貴族達の間で着られていたラウンジスーツというものが原型になって発展してきたものです。ですから、スーツを着ていたのはもともと貴族達でした。

 

ですからもし、20世紀前半に生きる彼らに「スーツはね君、みな200£で買っているんだよ」と教えてみたならば、彼らは腰を抜かすほどに驚くはずです。

「なんて安いんだ!」というわけです。

スーツは貴族達の着物であったこともあり本来、かなり高価です。本当にスーツに適した素材を表地、芯地、裏地と使い、スーツの仕立て職人が丁寧に作った場合、やはりスーツは(少なくとも)10万円をきる衣装ではないのです。

そう考えると、50万円のスーツは決して法外ではない、ということが分かりますよね。ここで新たな疑問が生じます。

「んじゃ、何で3万円以下でスーツが売られているの?」

先ほども書いたように、スーツは職人が手間を掛けて、非常に貴重な自然由来の生地を使って仕立てます。昔は全てのスーツが注文によって作られた注文服であった。

しかし今では「本物のスーツは注文服のみである」なんていう考え方は流石に通用せず、その注文服の作り方はできるだけそのままに、既製服として仕立てているものを含めて本物のスーツであると言えます。

こういったスーツは値段としては15万円、20万円〜となっていますし、日本でそのようなスーツを作っているスーツブランドはごく限られています。

3万円で売っているスーツは「簡略版スーツ」

 

それに対し3万円以下で売っているスーツ。

なぜ3万円で買えるかといえば、実はこれらは本物のスーツではないのです。アメリカ式の大量生産のもとに作られた、スーツ風の衣料というわけです。職人が行うような生地のならし、アイロンワーク、手縫いなどをがっさりと省略して時間を短縮しています。

スーツに使われるような生地を模した生地を使い、スーツと同じ形に縫い上げて、スーツと同じ役割を持たせたものです。

スーツは貴族の着物であり、本当は15万円以下では買えないようなものです。しかし、スーツというものは今では貴族のステータスでもなければ、談話の種でもなく、伝統的な衣装でもない。

働くビジネスマンの作業着です。

そこでスーツのビジネス的な要素だけを抜き取るのであれば、スーツの形があれば問題ない。スーツの形さえしっかりと再現していればビジネスに不適合とは見なされませんし、逆に値段が下がり、使い捨てができれば作業着としては本来のスーツよりも優れているといっても過言ではないでしょう。

そこで生まれた3万円のスーツは、ちょうど「インスタントフード」のようなものです。お腹を満たしてくれるし、「元になった料理」の味を楽しませてくれる。

本来のスーツと簡略版のスーツの関係はちょうど、ラーメンとカップラーメンの違いになるでしょうか。

非常に本格的なカップラーメンでも、お店で食べるラーメンとは根本的に物が違う。だけど、ラーメンを食べるような気持ちで楽しみ、お腹を満たすことはできるわけです。

なぜ50万円のスーツが売れるのか?

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このように考えると、なぜ50万円のスーツが売れるのか、理解できるような気がしませんか。

ほとんどの人が3万円以下の簡略版のスーツを着ており、本来のスーツを欲しがるヨーロッパの上流階級や日本のちょっとフリークな人達が、本物のスーツを15万円以上で買う。

そしてその中でもお金のある人は、より贅沢なスーツを欲しがり、ちょうど貴族達が着ていたようなラグジュアリーな生地を使って、さながら注文服のように職人の高い技術を用いて作られたスーツを買ってみたくなる。

ヴィンテージの贅沢な生地の場合、生地だけで値段は10万円を超えてしまいます。注文服のようなスーツを仕立てるのにはどんなに短くても22時間ほどの作業、そして220以上の工程が必要になります。

するとやはり50万円にほどほど近いコストが掛かってしまうのです。

もちろん実際にはそこに売り手側の利幅と、インポートであれば代理店のマージンがのってくるものです。それでも50万円というのは、その材料と手間暇からすると法外ではありません。

だから、50万円のスーツは売れていくのです。

職人の作るスーツは一点ものの芸術品

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もう一つ50万円のスーツが売れるのには理由があります。

例えば15万円〜25万円のスーツというのは、国産にしろインポートにしろ比較的多く存在します。しかしお金のある人はそういった25万円のスーツを2着買うよりは、50万円のスーツを1着買うことが少なくありません。

それは見栄を張っているからでしょうか?

いえ、違いますね。50万円のスーツは非常に特別で、ほとんど一点ものであり、歴史に残るような代物だからです。

スーツは値段が高くなればなるほど、基本的には生地のグレードと手作業の割合、そして職人のレベルが上がっていきます。

値段が安いスーツはそのブランドが安い人件費で雇った作業員にミシンを使ってスーツを作らせますが、値段が高いスーツはその道50年、60年のベテランが手縫いでスーツを作るので高くなってしまうのはある意味当然なのです。

しかしその中でも、50万円以上のスーツは、それ以下のものとは一気に雰囲気が変わる。

まるきり一点ものの芸術品のようになるのです。

その値段帯のスーツは手縫いで作られるので、仕上がり具合は毎回絶妙に異なります。

さらには希少な生地を使っており、同じ生地で仕立てられるのはほんの数着です。この希少な生地と毎度異なる手縫い、この組み合わせでスーツは完全に唯一無二になる。ボタンホールだけを見ても、その違いは明らかです。

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さらに職人の中には継承不可能とされる技術を持った、人間国宝になってもおかしくないような人達が多く存在します。こういった職人の作るスーツは、その職人が亡くなってしまえばもう手に入らない、歴史的な宝物なのです。

絵画が好きな人は自分の好きな画家の絵に50万円を払いますし、陶器が好きな人はアンティークのマイセンにさっと50万円を払いますよね。

スーツ好きからすれば50万円のスーツはそれと同じことなのです。

さらには50万円を払って購入した文化史に残るコレクションのようなそのスーツを、飾るのではなく自分の身体に着用することができる。ま、そのあたりを以て「なんであえてスーツなんだ?」という疑問もおさめて頂くとしましょう。

いかがでしたか?

今回は50万円のスーツがなぜ売れるのか、ということについてを解説してみました。

まあ、結局はスーツ好きが書くことなので客観的な意見ではないかもしれません。

でもその値段にはきちんとした理由があり、スーツマニア達が偉そうに「装い」だのなんだの語っていても結局は他の愛好家達と同じように、自分にとって価値のあるものをコレクションしたいだけなのだ、ということを分かってもらえれば何よりです。

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